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秋田地方裁判所 昭和61年(レ)35号 判決 1988年3月14日

控訴人(原審第一事件被告、第二事件原告) プロミス株式会社

右代表者代表取締役 大塚俊二

右訴訟代理人弁護士 荒井正熙

被控訴人(原審第一事件原告、第二事件被告) 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 廣嶋清則

主文

一  第一事件について、原判決主文一項(一)を次のとおり変更する。

1  控訴人、被控訴人間の昭和六〇年五月二二日付及び同年一一月二一日付各消費貸借契約に基づく、控訴人の被控訴人に対する金八万八九六二円の残貸金債務及びこれに対する利息、損害金が存しないことを確認する。

2  被控訴人の控訴人に対する昭和六〇年二月四日付消費貸借契約に基づく債務が存在しないことの確認を求める部分の訴えを却下する。

二  第二事件について、本件控訴を棄却する。(ただし、原判決主文二項(一)を「控訴人の請求を棄却する。」と更正する。)

三  控訴費用は、第一、第二事件を通じ、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  被控訴人は控訴人に対し、金八万八九六二円及びこれに対する昭和六一年三月七日から完済に至るまで年三割六分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

第一事件

一  請求原因

1  被控訴人は控訴人から、昭和六〇年二月四日付で二〇万円、同年五月二二日付で三四万三六五〇円及び同年一一月二一日付で六万円を各借受けたが、いずれも弁済をしたため、現在右各債務は存在しない。(弁済の日時、額及び充当関係は別紙計算書(一)のとおりである。)

2  しかるに、控訴人は前項記載の債権を有すると主張している。

3  よって、被控訴人控訴人間の昭和六〇年二月四日付の二〇万円、同年五月二二日付の三四万三六五〇円及び同年一一月二一日付の六万円の各貸金債務が存在しないことを確認する。

二  請求原因に対する認否

被控訴人の主張の日時に主張の金額を貸付けたこと、更に被控訴人の主張の日時に主張の金額の弁済を受けたことは認めるが、現在でも八万八九六二円の残債務が存在する。

三  抗弁

1  控訴人は、昭和五九年一月二一日、貸金業の規制等に関する法律(以下単に「法」という。)三条に基づく登録を受け、消費者金融を業としている。

2  昭和六〇年二月四日付包括契約の締結と交付書面

控訴人は被控訴人との間で、昭和六〇年二月四日、控訴人秋田支店において、別紙契約条項(一)の約定の限度借入基本契約を締結した。

右契約は、昭和五八年九月三〇日付大蔵省銀行局長通達(以下単に「通達」という。)第二の四、(2)、ハにいう包括契約にあたり、同契約を締結したときに交付する書面には、法一七条一項に掲げる事項中当該包括契約において特定しうる事項の記載が要求されている(通達第二の四、(2)、ハ、(ロ))ところ、右契約の際に控訴人から被控訴人に対して交付された書面には、法一七条及び貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下単に「規則」という。)一三条で後記3の貸付につき必要とされる事項(別紙一七条書面(一)、(二)記載の各事項)のうち、実際の貸付金額及びその年月日を除くすべての事項の記載がなされている。

3  前項の包括契約に基づく貸付と交付書面

控訴人は被控訴人に対し、前項の基本契約締結と同時に、これに基づき金二〇万円を貸付け、通達第二の四、(2)、ハ、(ロ)で要求されている貸付金額、貸付年月日及び基本契約の契約番号を記載した書面を交付した。

4  弁済と受取証書

(一) 控訴人は被控訴人から、昭和六〇年二月二八日、同年三月二八日及び同年四月二七日に各二万円、同年五月二二日に四二三〇円の弁済を受け取ったが、利息制限法所定の制限額を超える部分については、被控訴人が利息として任意に支払ったので、その充当関係は別紙計算書(二)のとおりとなる。

(二) 控訴人は被控訴人から弁済を受けた都度同人に対し、法一八条一項及び規則一五条一項の要求する事項の記載した書面を交付した。

5  昭和六〇年五月二二日付包括契約の締結と交付書面

更に、控訴人は被控訴人との間で、昭和六〇年五月二二日に控訴人秋田支店において別紙契約条項(二)の約定の限度借入基本契約を締結した。

右契約も通達にいう包括契約にあたり、右契約の際には被控訴人に対し、法一七条及び規則一三条で後記6・8の貸付につき必要とされる事項(別紙一七条書面(一)、(二)記載の各事項)のうち、実際の貸付金額及びその年月日を除くすべての事項を記載した書面を交付した。

6  前項の包括契約に基づく貸付と交付書面

控訴人は被控訴人に対し、前項の包括契約締結と同時に、昭和六〇年二月四日付の貸付契約に基づく貸付残金一五万六三五〇円と追加貸付金として三四万三六五〇円の合計五〇万円を貸付け、その際、通達第二の四、(2)、ハ、(ロ)で要求されている貸付金額、貸付年月日及び基本契約の契約番号を記載した書面を交付した。

なお、右の貸付のうち一五万六三五〇円は、従前の貸付契約に基づく債務の残高を貸付の金額とする、いわゆる借換え契約にもあたるところ、右契約に際し、控訴人は被控訴人に対し、通達第二の四、(2)、ニにいう債務の残高及び従前の貸付契約を特定するに足りる事項を記載した書面を交付した。

7  弁済と受取証書

(一) 控訴人は被控訴人から、昭和六〇年五月二二日に四二三〇円、同年七月一日に三万五〇〇〇円を、同年八月二日に三万二〇〇〇円、同月二九日に三万円を、同年九月二六日に三万円を及び同年一〇月二九日に一万五六八〇円の弁済を受けたが、利息制限法所定の制限額を超える部分については、被控訴人が利息として任意に支払ったので、その充当関係は別紙計算書(二)のとおりとなる。

(二) 控訴人は被控訴人から右弁済を受けた都度同人に対し、法一八条一項及び規則一五条一項の要求する事項を記載した書面を交付した。

8  昭和六〇年五月二二日付包括契約に基づく貸付と交付書面

更に、控訴人は被控訴人に対し、昭和六〇年五月二二日付包括契約で定められた借入限度内で、同年一一月二一日六万円を貸付け、その際、通達第二の四、(2)、ハ、(ロ)で要求されている貸付金額、貸付年月日及び限度借入基本契約と契約番号を記載した書面を交付した。

9  弁済と受取証書

(一) 控訴人は被控訴人から、昭和六〇年一一月三〇日三万円、同年一二月二八日五万円、同六一年一月三一日五万円、同年三月六日三三万四九一九円の弁済を受けたが、利息制限法所定の制限額を超える部分については、被控訴人が利息として任意に支払ったので、その充当関係は別紙計算書(二)のとおりとなる。

(二) 控訴人は被控訴人から右弁済を受けた都度同人に対し、法一八条一項及び規則一五条一項が要求する事項を記載した書面を交付した。

10  以上のとおり、控訴人は二度の包括契約締結及びこれらの契約に基づく三度の貸付の際に、いずれも法一七条、規則一三条及び通達第二の四、(2)、ハ、ニの規定により要求される事項を記載した書面を被控訴人に交付し、更に被控訴人は利息制限法一条一項に定める利息制限額を超える金額を任意に支払い、その支払いに際しては、控訴人から法一八条一項、規則一五条一項の規定する事項を記載した書面を交付されたのであるから、右超過部分は法四三条によって有効な利息債務の支払いとみなされるべきであって、この弁済充当関係は別紙計算書(二)のとおりとなり、結局、被控訴人は控訴人に対し八万八九六二円の残債務を負担している。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は認める。

2  抗弁2のうち、控訴人主張の限度借入基本契約を締結したこと、右契約の際、別紙一七条書面(一)、1、4、5、7、(二)、1ないし5、7が記載された書面が作成され、控訴人から被控訴人に交付されたことは認め、右書面に同(一)、6、(二)、6が記載されていたことは否認する。

3  抗弁3のうち、主張の日時に主張の金額を借受けたこと、右借受の際控訴人が被控訴人に対し、別紙一七条書面(一)、2、3が記載された書面を交付したことは認める。

4  抗弁4、(一)のうち、主張の日時に主張の金額の弁済をしたこと及び(二)は認め、支払が任意にされたことは否認する。

5  抗弁5のうち、控訴人主張の限度借入基本契約を締結したこと、右契約の際、別紙一七条書面(一)、1、4、5、7、(二)、1ないし5、7が記載された書面が作成され、控訴人から被控訴人に交付されたことは認め、右書面に同(一)、6、(二)、6が記載されていたことは否認する。

6  抗弁6のうち、主張の日時に主張の金額を借受けたこと、右借受の際控訴人が被控訴人に対し、別紙一七条書面(一)、2、3が記載された書面を交付したことは認める。

7  抗弁7、(一)のうち、主張の日時に主張の金額の弁済をしたこと及び(二)は認め、支払が任意にされたことは否認する。

8  抗弁8のうち、主張の日時に主張の金額の貸付けを受けたこと、右借受の際控訴人から被控訴人に対し別紙一七条書面(一)、2、3が記載された書面を交付したことは認める。

9  抗弁9、(一)のうち、主張の日時に主張の金額の弁済をしたこと及び(二)は認め、支払が任意になされたことは否認する。

10  抗弁10は争う。

五  被控訴人の主張

1  控訴人が貸付の際に交付した書面には、法一七条一項六号に定める返済期間の記載がない。

まず、二〇万円の貸付の際に交付された二通の書面のうち、一通の限度借入基本契約書の写しには、限度借入基本契約の有効期間(二年間)が記載されているのみであって、返済期間についての記載はない。もう一通の計算書には期間に関する記載は全くない。五〇万円(実際は三四万三六五〇円)貸付の際の交付書面も同様である。また、六万円の貸付の際にはわずかに計算書が一通交付されただけであるが、これにも返済期間の記載はない。

ところで、仮に右限度借入基本契約の有効期間が個別の貸付の返済期間を定めたものと仮定しても、甚だ不都合な事態が生ずる。すなわち、契約書写しには毎月の元本返済方法が五〇〇〇円以上と記載されているので、毎月五〇〇〇円宛返済することも可能となり、そうすれば二年間では合計一二万円しか返済されなくなり、結局返済期間内での弁済はできなかったことになる。つまり、右の二年間というのは、限度借入基本契約の有効期間を定めたにすぎないのであって、個別の貸付の返済期間を定めたものではないものである。このことは、例えば借入金を期間内に完済した後、再度右期間満了直前に借受けたとすると、この債務の返済期間は一体いつということになるのか、期間満了日ということなのか(それならば、返済期間が極めて短く、債務者の意思に反する。)、貸付から二年後ということなのか(これは交付されるどの書面にも記載されていない。)が、不明である。契約書写しには「期間満了日までに当事者から何らの申出がないときは、さらに二年間契約を自動継続するものとし、以後その例によります。」との記載があるが、その通りであれば、当事者からの申出がない限りいつまでも期間が延長されることになり、つまりは期間の定めがないも同じであって、この点からいっても右二年間というのは返済期間を定めたものではない。

また、包括契約に基づく貸付である以上やむをえないとの反論に対しては、そもそも法にも規則にもない包括契約なるものを一片の通達で許容されるとすること自体極めて問題であるうえ、仮に包括契約方式による貸付が許されるとしても、その場合に法四三条の適用条件が緩和されてよいということはない。かえって、包括契約方式の場合には返済期間等返済に関する事項が不明瞭化する恐れがあるのであるから、交付する書面にはその点に関しより明確に記載すべきことが要求されるのである。そして、もし包括契約方式を採ることにより貸付条件が不明瞭となっている実態があれば、契約書面の交付という法の目的が達せられておらず、法四三条の要件は充たされていないと考えられるのである。

ところが、控訴人の採る包括契約方式は、右に述べたように包括契約の期間と返済期間との関係が不明瞭で、返済期間の定めがないものというべきで、このような方式を採る限り返済期間不明のまま借増、借換えによって債務は無限に増大していくことになり、これは一つの過剰貸付であり、法一三条を設けた趣旨に反する。また、控訴人の包括契約方式によれば、もし控訴人の側で期間満了の際に契約の自動延長を拒否した場合にはすべての債務が履行期に達してしまうということになるが、これは返済期間の定めがないものというべきはもちろんであるが、それよりもそもそも限度借入基本契約の有効期間の定め方自体に問題があるのである。しかも、その定め方は債務者を不安定な立場に置くものであって、後日の紛争発生を防止するとの趣旨から定められた法一七条に反する。

2  控訴人が被控訴人に交付した書面は、法一七条に定める書面ではない。

すなわち、控訴人が二〇万円及び五〇万円の貸付の際に交付した書面は契約書という表題になってはいるものの、実質は被控訴人のみが署名押印して控訴人に差し入れた借用証書の写しにすぎない。この写しが法一七条の書面であるというためには、それが差入(借用)証書の原本と内容が同一のものであるとの控訴人の認証文を付する必要があるが、右交付書面には右上に「写」の文字が印刷されているだけで、右の認証文は付されていない。

したがって、控訴人は法一七条に定める書面を被控訴人に交付していないというべきである。

3  被控訴人は利息制限法の制限超過利息を任意に支払っていない。

被控訴人は利息制限法という法律を全く知らず、また控訴人従業員からも同法の説明を受けていない。

ところで、任意に支払うとは、本来支払義務のない超過分の利息をあえて支払うことを意味するとされているのであって、被控訴人の場合は利息制限法を知らず、約定利息どおりの支払義務があると認識していたのであるから、あえて支払うということに当たらない。そして、あえて支払うという債務者の意思が、債務者自身の錯誤に基づくときは、それはもはや債務者の自主的な、あるいは自由な意思に基づくものといえないのであって、本件の場合、被控訴人は、本来支払義務のないものを支払義務あるものと誤信して支払ったのであるから、正に錯誤に陥っていたのである。

そして、被控訴人はこのように利息制限法の制限というものを全く知らなかったのであるから、超過利息が無効であることももちろん知らなかった。

任意性ありとの解釈については対立があるが、法の目的は貸金業を営む者に対し規制を加えることによって、その業務の適正な運営を確保し、もって資金需要者等の利益の保護を図ることとされている(法一条)のであり、業務の適正な運営を確保することは究極的には資金需要者等の利益を図るためであるから、結局法の目的は資金需要者等の利益の保護を図ることに存するというべきであって、この観点からは任意性も厳格に解釈すべきであって、超過利息(損害金)部分が無効であることを知りながら支払ったことが必要である。

4  被控訴人は、利息制限法の制限超過利息を利息として、すなわち利息と指定して支払っていない。

まず、被控訴人は控訴人に対し、利息と積極的に明示して支払ったことはない。

被控訴人は単に一定の金員を店頭に持参するのみであって、充当するのは控訴人である。控訴人は支払を受けた都度充当の内訳を記載した計算書を被控訴人に提示し、これに被控訴人に署名押印をさせているが、被控訴人はただ控訴人のいうがままに署名押印しただけであって、被控訴人は一度も充当について積極的な意思表示をしたことはないのである。

六  被控訴人の主張に対する控訴人の反論

1  返済期間の定めがないとの主張について

本件限度借入基本契約の契約規定二条一項には、該契約の有効期間が該契約締結の日から二年間である旨及び同項ただし書に該当する場合は自動延長される旨の記載があり、同条二項では自動延長されることなく期間が満了した場合は該契約に基づく債務は履行期に達したものとみなし、残額全部を一時に支払うべき旨が定められているのであって、これが返済期間を定めたものであることは明白である。

また、右当事者からの申出がない限り自動延長されるという規定も、要は当事者の意思により延長するということを簡易化したにすぎず、何ら問題はない。

そして、法、規則にない包括契約を通達で許容することは問題であるという指摘についても、法は手続面を規定するだけで、契約の内容や実体的な側面については規定しておらず、実体面は契約自由の原則が支配するものであって、包括契約という貸付方法もこの原則により認められるのである。

したがって、通達は、包括契約について、交付書面、記載事項等の手続面における法の解釈を示したにすぎず、通達が法に反しているということはない。

2  契約書面について認証文を付していないとの主張について

法一七条の解釈論として、認証文を付すべしという根拠は乏しく、同条に規定する事項がもれなく記載されておれば、いわゆる写しでもよいと解釈すべきである。

認証文を要するという見解は、単なる写しでは契約証書の原本との内容の同一性についての保証がないとする趣旨のようであるが、少なくとも本件においては、契約書面として被控訴人に交付された限度借入基本契約書の写しは、三枚一組のいわゆるノーカーボン複写式用紙を使用し、店頭で被控訴人が住所、氏名等を自署し、控訴人が契約番号等を記入し、両当事者で同一内容の書面を三通作成したうちの一通を被控訴人に交付したのであって原本との内容の同一性に対する最も高い信頼性を有するものであるから、法一七条の書面として適格性に欠けるところはない。

3  任意の支払ではないとの主張について

法四三条の任意性の解釈は、法の規制との関係及び立法趣旨からすれば、むしろ貸金業者の強制的行為の有無等に解釈の重点が置かれるべきである。

仮に、債務者が制限超過利息が無効であることを知らなければ任意の支払とはいえないとすると、そのような債務者はほとんどいないのであろうし、立証の面からも無理があり、結局実際上は法四三条が適用される場面は考えられなくなり、疑問がある。

被控訴人は法一条に規定する法の趣旨を資金需要者等の保護にあるとするが、法の目的は直接には規制により貸金業者の業務の適正な運営を確保することにあり、これを全うするためにも、資金業者にも一定の有利な結果を認めることが必要であるとして法四三条が規定されたのであり、かえって被控訴人のような解釈を採ることは法の趣旨に反するのである。

4  利息として支払われたものではないとする主張について

被控訴人は、利息としてとは、利息として指定しての趣旨であると主張するが、右の指定は充当の意思表示と同義と解すべきで、本件における事実関係に即せば制限超過利息が被控訴人の指定により支払われたと明確に認定できるのである。

また、被控訴人は充当について積極的な意思表示を要するとしているかのようであるが、むしろこれは任意性の問題であって、あえて積極性をいう必要はない。

第二事件

一  請求原因

1  第一事件の三(抗弁)に同じ

2  被控訴人は、昭和六一年三月二日限りの支払いを怠ったので、前記特約に基づき同日の経過をもって期限の利益を喪失した。

3  よって、控訴人は被控訴人に対し、金八万八九六二円及びこれに対する昭和六一年三月七日から完済に至るまで、前記約定利率を利息制限法に基づき減縮した年三割六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1については、第一事件の四(抗弁に対する認否)に同じ

2  同2及び同3は争う。

三  被控訴人(原審第二事件被告)の主張

第一事件の五(被控訴人の主張)に同じ。

四  被控訴人の主張に対する控訴人の反論

第一事件の六(被控訴人の主張に対する控訴人の反論)に同じ。

第三証拠《省略》

理由

一  第一事件抗弁事実及び第二事件請求原因事実中、控訴人が法三条に基づく登録を受け消費者金融を業としていること、控訴人の被控訴人との間で、控訴人主張のとおり二回の限度借入基本契約が締結されたこと、右各契約に基づいて控訴人主張どおりの金銭消費貸借契約が成立し、これに対して、被控訴人から主張のとおり弁済があったことは、当事者間に争いはない。

二  さて、本件第一、第二事件を通じての争点は、被控訴人から控訴人に対して支払われた弁済金のうち、利息制限法一条一項に定める利息の制限額を超える部分が法四三条により有効な債務の弁済とみなされるか否かにあるので、まずこの点につき検討する。

1  貸金業の規制等に関する法律四三条は、金銭消費貸借上の利息の約定に基づき、債務者が貸金業者に対し利息制限法の制限金利を超える利息を任意に支払った場合には、次の要件を具備する場合に限り、その超過部分の支払いを有効な利息債務の弁済とみなすとしている。

(イ)  消費貸借契約(利息、損害金契約)の締結のときに、貸主が金融業者であったこと

(ロ)  業として行う金銭消費貸借上の利息又は損害金の契約に基づく支払いであること

(ハ)  利息制限法に定める制限額を超える金銭を、債務者が利息または損害金と指定して任意に支払ったこと

(ニ)  法一七条の規定により法定の契約書面を交付している者に対する支払いであること

(ホ)  法一八条の規定により法定の受取証書を交付した場合における支払いであること、

ちなみに、前記当事者間に争いのない事実によれば、本件各貸金については、右の要件のうち、(イ)、(ロ)及び(ホ)の要件は充足しているといえる。

2  ところで、法一七条及びこれを受けた規則一三条が、契約内容を明らかにする書面の交付を要求しているのは、契約締結時に契約内容を明確にしてそれを書面に記載させ、その書面を債務者に交付することによって、債務者に契約内容を正確に知らせ、貸金額や弁済の充当関係等について、後日の紛争の発生を防止するためである。

また、本件のような限度借入基本契約を締結し、この基本契約に定めた条件により個々の貸付を行う契約形態については、法には直接これを定めた規定はないが、通達第二の四、(2)、ハは、あらかじめ定める貸付けの具体的条件に基づき反復継続して貸付けを行う契約(包括契約)についての交付書面の内容を次のように規定している。

(イ)  包括契約を締結したとき及び当該包括契約に基づく貸付けを行ったときには、そのいずれのときも書面を交付しなければならない。

(ロ)  包括契約を締結したときに交付する書面には、法一七条一項に掲げる事項中、当該包括契約において特定しうる事項を記載しなければならない。

(ハ)  包括契約に基づく貸付けをしたときに交付する書面には、貸付けの金額、貸付けの年月日及び当該包括契約の契約番号を記載しなければならない。

右通達の規定は、包括契約が通常の一回限りの貸付を行う場合とは異なる契約形態のものであるため、法一七条、規則一三条の趣旨を右契約にも及ぼすため特に設けられたものと解せられる。

したがって、右(ロ)にいう、当該包括契約において特定しうる事項とは、包括契約締結時には論理上記載不能なもの(例えば右(ハ)の貸付けの金額及び貸付けの年月日)を除く、法一七条及び規則一三条が要求するすべての事項(本件の場合は別紙一七条書面(一)、1、4ないし7、(二)、1ないし7の事項)を指すというべきであり、これを欠く書面は法及び規則の要件を充たさないものといわなければならない。

3  そこで、昭和六〇年二月四日付けの借入限度額を二〇万円とする限度借入基本契約が、法及び規則の要求する要件を充たしているかについてであるが、右契約の際被控訴人に交付された書面には別紙一七条書面(一)、1、4、5、7、(二)、1ないし5、7が記載されていたことは当事者間に争いがないところ、同(一)、6、(二)、6の記載の有無については争いがあるので、この点につき判断する。

《証拠省略》によれば、限度借入基本契約締結と同時に作成され、被控訴人に交付された昭和六〇年二月四日付限度借入基本契約書と題する書面には、借入限度額が二〇万円と定められているほか、借入要項欄には支払期限について、昭和六〇年二月二八日を第一回の支払期限として、その後毎月三一日限り支払うべきものと記載され、更に元本返済方法としていわゆる自由返済方式の定めがなされ、元金の分割返済額は、支払日当日までの利息に添えて支払うものとし、各支払期限当日、あるいは期限前一四日以内に元金五〇〇〇円以上を返済し、毎月の返済回数は自由と記載されている。

他方、借入要項欄の下に別個に設けられている契約規定欄の第二条には、契約の期間との表題をもって、

一項 本契約の有効期間は、契約締結の日から二年間とする。ただし、期間満了の日までに当事者から何らの申出がないときには、さらに二年間契約を自動継続するものとし、以後もその例によるものとする。

二項 前項本文の期間が満了した場合、あるいはただし書により継続された期間が満了した場合で、自動継続がなされなかった際は、本契約に基づくすべての債務は履行期に達したものとみなし、元金、利息、遅延利息のすべてを一時に支払うことを承諾する。

との記載がある。

右借入要項欄の支払期限及び元本返済方法に関する記載によれば、限度借入基本契約に基づく個々の借入金の返済は、元本充当額が月々少なくとも五〇〇〇円以上であり、これを毎月末日限り返済すべきであるというのであり、これによれば、最終期限は限度借入基本契約締結時から最大限、借入金を五〇〇〇円で除した月数後と理解できないではない。しかし、他方契約規定第二条によれば、同規定は直接には限度借入基本契約の有効期間を規定したものであるが、同条二項では、右契約が満了し、自動継続がなされなかった際は、すべての債務が履行期に達するとされているのであって、同条一項において、当事者の申出がない限り契約は自動継続されるとされてはいるものの、規定上、当事者の一方から理由如何を問わずに限度借入基本契約を有効期間の二年間でその継続を拒絶することもできるとされているのであり、その結果、個々の債務はすべてその時点で履行期が到来することになるのである。

しかし、そもそも法一七条が返済期間及び返済回数についてその契約の内容を明らかにする書面の交付を要求し、規則一三条もこれを受けて、各回の返済期日及び返済回数の記載を要求した趣旨は、前記判示したとおり、返済期間や返済回数、返済金額が弁済計画に深い関係があり、弁済の充当計算にもかかわるものであって、契約の重要な内容であり、これについて一義的かつ明確な定めをさせ、これを書面に記載させることにより後日の紛争を防止しようというのであるから、一方で毎月末日までの元本充当額が五〇〇〇円以上であれば足りるかのような記載をしながら、片方で契約当事者(貸主)の一方的な申入れにより、借受人が予期しない時期に残額の一括返済を迫られる事態が生じるような定めをすることは、右立法の趣旨に反し許されないといわなければならない。例えば、五〇〇〇円で除した月数が二四か月を超えるような金額を借受けた場合には、借受人は右五〇〇〇円で除した月数以内に弁済すれば足りると考える可能性が強いのであり(むしろ右契約書の記載は、借受人にとり都合のよい時期に、都合のよい金額の支払いをすればよいとするものであり、借受人にこのように思い込ませる効果を狙っているともいえよう)、また限度借入基本契約の期間満了の直前に、限度範囲内で金員を借受けた場合などでは、契約期間満了の際、貸主から契約規定第二条により右契約の更新を拒絶され、一括して借入金全額を返済しなければならない事態が生じる可能性のあることを、少なくとも借受人は予想することはできないと思われるのである。

証人浅野鎌孝、同佐々木京治は、右のような返済方法の定め方も法や規則等に合致していると供述するが、右のような定め方は借受人に思わぬ不利益を与えるものであることは避けられず、右規定の立法趣旨を考えれば、右各証言を採用することはできないといわざるをえない。

もちろんこの理は、借入限度額を五〇万円とする限度借入基本契約締結と同時に作成され、被控訴人に交付された昭和六〇年五月二二日付の限度借入基本契約と題する書面にも当てはまるのである。

4  以上によれば、右各限度借入基本契約書と題する書面には、別紙一七条書面(一)、6、(二)、6の記載がないものといわざるをえず、したがって、被控訴人から控訴人に対する支払いは、法一七条の規定により法定の契約書面を交付している者に対する支払いとはいえず、右の支払いのうち、利息制限法一条一項に定める利息の制限額を超える部分は法四三条により有効な債務の弁済とみなすことはできないのであって、これを前提として弁済の充当関係を計算すれば、別紙計算書(一)のとおりとなり、被控訴人の控訴人に対する本件貸金の残債務は存しないこととなる。

三  よって、被控訴人の請求を認容し、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるが、ただ被控訴人の債務不存在請求の訴え(第一事件)のうち、少なくとも昭和六〇年二月四日付の二〇万円の貸金債務の不存在確認を求める部分は、控訴人もこれを認めて争わないところであるので、右訴えは確認の利益を欠き、この範囲で原判決は変更を免れず、また第二事件については控訴を棄却し(ただし、原判決主文二項(一)は明らかに誤っているので更正する)、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 宇田川基 稲葉一人)

<以下省略>

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